『錆喰いビスコ』黒革の声優は津田健次郎さん

『錆喰いビスコ』のこれまでのキャラクターの紹介は、全て主人公サイドのもの。そう、錆喰いビスコを世に知らしめた、偉大な悪役がまだ紹介していません。

れでぃーすえーんどじぇんとるめんっ、みすたー、黒革ぁー!

引用 瘤久保慎司 赤岸K/電撃文庫

いや、六巻読んだ方であれば、『みすたー』と言っていいのか、と言われるかもしれませんが、私は黒革が黒革足り得たのは一巻の黒革だったと思っています。

いや、極論してしまえば『みすたー』でなくても良いんですが、六巻の黒革は個人的に【ない】と思っているので、一巻に登場した黒革をメインに語らせて頂きます。なので、六巻には『黒革ケンヂ』とフルネームで出していますが前述の理由より、私はあくまで『黒革』という一巻のキャラを紹介、考察させて頂きます。

最初の登場シーンは、ビスコの相棒になる前のミロが相手でした。

ミロが、サソリアブに刺された子どもの患部を治療し、ワニまん(ミロ一押しの饅頭)を与える、という慈愛に満ちた行為に出てきた『黒革』という忌浜県知事。

 彼は、ミロと目を合わせるなり、こう告げます。

『……およそそういう、慈善の心、善行などというものは、金持ちのデブガキが、チーズバーガーのピクルスをそこらの犬に投げて悦に入るような、自慰まがいの遊びに過ぎない』

いや、もうこのファーストコンタクトからして、ああ、コイツがこのお話のラスボスなのね、とわかる台詞。

どっからどう聞いても悪党でなければ吐けない言の葉。

イラストから判断するに、眼鏡をかけた深い黒目、黒の鍔広帽に黒のスーツ、黒の皮手袋……マフィアのような出で立ちですが、ビジュアルも『あ、コイツがラスボスの悪党か』と一目でわかる親切仕様、どこの言峰綺礼だお前、という感じですな。

まぁ、内面は言峰と全く異なる訳ですが、悪党であることに違いはありません。

しかし、しかしですよ。

訳がわからないのは、そんな『私は悪党です、この作品のラスボスです』と言わんばかりの台詞、出で立ちで登場したのに、彼が部下として引き連れているのは忌浜マスコット『イミ―くん』の覆面を被った親衛隊。

引用 瘤久保慎司 赤岸K/電撃文庫

ウサギっぽい覆面被ったガタイの良い男達が、ラスボスですと言わんばかりの登場をした男に従って歩く、シュールな光景。

……いや、最初にこの文章読む前に、絵が目に飛び込んでくる訳ですよ。

『はっ?! へっ?!』となりましたよ、冗談抜きで(笑)

ラスボスみたいな登場して実はギャップを活用したギャグキャラなのかと一瞬疑いましたが、やはり台詞まわしが悪党かつ、外道。

『しかし、考え方の問題もある。どちらが、無駄か? オレと、ナッツでもつまみながら、一番強い漫画の主人公について議論するか。それとも……どうやっても治らない姉のために、気休めにむなしく手を尽くすか?』

『お前の行為は美しく、そして無駄だ』

うん、聖人君子のような人物が嫌いだからこういう悪辣な発言が出てくるのでは、という疑問も出てくるかもしれないので、金のために主人公ビスコを殺すべく、その師匠ジャビに戦闘機で機銃掃射を行った大茶釜チロルとのやり取りがこちら。

『あのお。保険は、出るんですよね? あたしのエスカルゴ、あれ、私物なんですけどお』

『勿論だとも。香典に添えて出す』

出す気無いよ、というのをオブラートに包むのがエレガントな黒革。

これだけじゃありませんよ、チロルに拳銃を取り出して、放ってやってからこんなやり取りもありました。

『え、ええッ?! あ、あの赤星と、生身で、やれってのお?!』

『おいおい。給料は受け取っただろ。契約違反で絞首刑より、マシだと思うんだがなあ』

暴論で相手を誘い、正論で相手を追い詰める。

いやいや、ほんの数ページのやり取りだったんですが、随分とアクの強そうな悪役を配してきたなと、初見時には思ったものです。

しかし、それが『イミー君』の覆面被った部下とセットの絵なんですから、そのまま【強キャラの悪役が出てきた】と素直に受け取って良いものか、少しばかり悩みました。

まぁその懸念はビスコたちとの戦闘場面で払拭されましたが。

ビスコとミロ、パウーの三人が錆を浄化するキノコ『錆喰い』を見つけると、列車の運行記録から彼等の位置を割り出すという智謀に長けた面を披露。

さらにはビスコから攻撃を受けた際にも、大型の魚型航空重機に対し、慈善に抗菌加工を念入りに施していたことで、ビスコのキノコ毒を炸裂させませんでした。

しかも、その攻撃に対し、ビスコの攻撃を防ぎ切ったことに己惚れるでもなく、『うへえ。あんだけ抗菌加工して、あやうく咲くとこだ。何発も喰らえねえ』と相手戦力の脅威をしっかり認識しているとこが実にクレバー。

ちなみに、ビスコは弱っているからここで仕留めようと提言した部下は、あっさりビスコの矢によって射殺されていますので、黒革の観察力は図抜けていると言っても良いでしょう。

パウーも、黒革を以下のように評しています。

『赤星。本当に黒革を相手取るなら、甘く見るな。奴はとにかく臆病で……それゆえに、慢心のない奴だ』

このパウーの評価は適切なもので、黒革は相当ビスコを警戒して、まずはミロを絡め手で手駒にしようと、パウーを人質にして呼び寄せようとします。

首尾よくミロのみを呼び寄せた際にも、実に用心深く、ミロの奇襲と言うか、謀略じみた菌術を行使しますが、黒革その人もキノコ守りであった、という情報が無かったためにミロは不覚を取っています……この辺りの情報管理も、抜け目なさが出ていて良いですし、『糸繰り茸』の菌術でミロを操り、ビスコにぶつけるという非情さも理にかなった闘い方だと思います。

まぁ、ビスコが主人公補正がかかっているから、という理由も大きいのですが、黒革がビスコ『達』に勝てなかった理由は、黒革は、黒革一人しかいなかったから、だと思いましたね、私は。

ビスコに、ミロ、パウーに、ビスコの師匠のジャビ。

四人も相手にしなければならないのに対し、黒革サイドは、知事と言う立場で動員できるイミーくん達だけであり、このイミーくん達も、先程出てきた『糸繰り茸』の菌術で操っているに過ぎません。

つまり、戦術単位ではなく、人生設計の段階、他人を信用するか否か、という点で勝敗を分けているかと思われるので、黒革が負けてしまったのは、どんなに戦術面でビスコに勝とうが、主人公補正がビスコサイドになかったとしても、最終的には負けていたでしょう。

もっとも、補正がビスコサイドになかった場合、誰かが死亡するなどの、取り返しのつかないダメージが与えられた可能性が高い、と私は考えていますけどね。

理由は、死んでなお『テツジン』にその意識を宿らせ、日本を壊滅させようとするところなんか、執念の権化みたいで、これをラスボス補正と見るか、これだけの執念があったからこそ、赤星ビスコみたいな化物を、さらにそれをフォローするミロ、パウー、ジャビがいても追い詰めることが出来た、と見るかは読み手によって見解が分かれるところではあると思いますが、私はこの執念を甘く見るべきではないと思います。

『オレも、お前と同じだ、赤星! お前が強くても、正しくても。はいそうですか、って、死ねねえのは! オレも同じなんだァ――ッッ!』

この叫びに黒革、という人物の執念が凝縮されているかと。

津田健次郎さんがこの叫びをどう演じるのか、今から楽しみなんですが、一巻の黒革という人物に、不満な点が無い訳ではありません。

キノコ守りであった過去があり、作中の文から推測するに『糸繰り茸』の菌術を編み出した己の力を認めなかった、キノコ守り達に対して復讐心みたいなものを持っているような感じでしたが、作中で明言されている訳でもなく、一巻内で何かしらのエピソードで語られている訳でもなく……ここを掘り下げて貰えれば、より、黒革というキャラクターの、悪としての魅力が備わったのではないかと思うのです。

あるいは、そういう掘り下げをしつつ、

『いや、ダラダラ喋り倒したが、そんなのは一番強い漫画の主人公について議論するくらい全然関係なくてな。俺が、そうしたいから、したんだよ。イカした理由だろ?』

とでも断言すると、絶対的な悪、みたいな雰囲気が漂うと思うんですよねぇ……悪としての魅力が、一巻の黒革には溢れているだけにそこだけ残念な点です。

 ですので黒革役の津田健次郎さんには、もう徹底して悪党のように語り、囀り、叫んで欲しいものです。

『お前が強くても、正しくても。はいそうですか、って、死ねねえのは! オレも同じなんだァ――ッッ!』と。

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