昨日は『錆喰いビスコ』の女傑、猫柳パウーについての紹介をしましたが、本日は大茶釜チロルについてまとめてっみようかと。
でも私、そんなにこの大茶釜チロルに良い印象を持っていないんですよね。
引用 瘤久保慎司 赤岸K/電撃文庫
その理由は、彼女の初登場のシーン、正確に言うと彼女自身が出てくるのはもうちょい後になるんですが、物語のシーンとしては、彼女が出ているのは主人公であるビスコ達を、作中の動物兵器の一種であるエスカルゴ空機(カタツムリの頭部が爆撃機と合体し、巻貝を背負っている、という描写有り)で爆撃しているんですね。
まぁ、現代の爆撃機ではないので、爆弾を落とす訳ではないんですが、カタツムリの頭部から毒々しいピンク色の溶解液を吐き出すんですな。
でもこれ、アニメでどういうふうに描くんでしょうね? 深夜枠だからいいんでしょうけど、リアリティを追及し過ぎて、毒々しいグロテスクなものでなければ良いんですけど……
で、この溶解液での爆撃はアクタガワの影に逃げ込むことでビスコたちは難を逃れるんですが、続けて放たれた機銃の掃射によって、ビスコを庇う形でジャビ師匠が重傷を負っているんですよね。
いや、これって中々に酷くないですか? 空から一方的に溶解液の爆撃をしてから、機銃掃射……
現実で例えるなら、F15などに代表される戦闘機でバルカン砲ぶっ放して殺そうとしているようなもの。
殺し合いというより、虐殺の領域に入ります。
まぁ、エンタテイメント作品であるライトノベルだから、主人公のビスコがどれだけ桁違いの戦闘能力を持っているか、一発でわかるようにするための舞台装置、だということはわかるんですけどね……
そういうことを仕出かすお嬢さんなので、どうにも好きになれんのですよ、大茶釜チロルというキャラ。
でもビスコ倒すために黒革に雇われたという立場を考えれば、戦闘機でも持ち出さないと赤星ビスコは倒せんよなぁ、というのは理解出来るので、嫌うかと問われるとちょいと微妙、という感じです。
ビスコが弓矢で戦闘機を撃墜しているんですから、チロルが戦闘機持ち出したことそのものの判断としては、戦闘機を持ち出してさえまだ足りなかった、という評価をせざるを得ないので。
戦術的判断としては、失敗しているので妥当とは言えずとも、ビスコ抹殺について、失敗したことを責める訳にもいきませんし(弓矢で戦闘機撃墜されるなんて誰だって想像できねえ)、道徳的にどうなんだ、と問うたところで、それで失敗しているんですから『まだ足りない』と言われることはあっても、私のように道徳的な観点から責める人なんて、黒革陣営にいる訳もないでしょうし。
まぁこれは、ジャビ師匠が撃たれ、生死の境を彷徨ったことによる、一読者としての、私の八つ当たりのようなものです。
実際、ジャビ師匠『あのパンダ小僧の腕がなかったら、ワシもここまでじゃったろうな』と。
閑話休題、話を大茶釜チロルにもどしましょう。
外見だけならなかなか可愛らしい少女、とありますが、それはあくまで外見だけです。
雇い主の黒革に『あ、相棒のじじいは、仕留めたはずですっ、機銃を直撃させた……』と言っていますので……この女子、パウーとは違う意味で個性が強いんですよね。まず、価値観が私達現代人とはまるで違う。人の命を何とも思っていない辺りは特に。
ただ、人の命を何とも思っていない傭兵なだけであれば、個性が強い、などと私は表現しません。
この大茶釜チロル、よりにもよって黒革相手に、ビスコによってエスカルゴ空機を弓矢で撃墜されていますが、保険は出るのかという内容の質問をしているんですよね。
いや、『小狡そうな顔』と作中で大茶釜チロルの顔を表現していますが、小狡いだけで黒革という一巻のラスボス相手に保険請求なんて出来ないでしょう(笑)
引用 瘤久保慎司 赤岸K/電撃文庫
まぁそこは黒革『勿論だとも。香典に添えて出す』という、実にらしいゼロ回答をしております(笑)
さらに、黒革は拳銃を取り出し、チロルに与えてから、二十人ほど連れて下町に回れ、と言われます。ちなみに、その時の下町にはビスコが潜入してました。
赤星と生身でやれってのお、と文句言うチロルの気持ちもわからなくもありませんが、あの黒革に契約違反だと指摘されるのは彼女くらいじゃないでしょうか。
チロル曰く、『変なバイト』と称しているので、臨時の傭兵扱いだったと思われるのですが……個人的な主観に基づけば、人を見る目は無いらしく、黒革の手先で出てくるのが本作初登場のシーンですし、ビスコは凶悪な面貌をしている上に指名手配をくらっているので、まぁしょうがないとしても、ミロからアクタガワ盗もうとするのは、善人をカモ判定する悪人の所業でして、そういうとこ見ていくと、大茶釜チロルは小悪党なんですよねー。
ミロに命を助けられてからは、二人を相手にしている時は真っ当なに本業の商売をしている―ように見せかけて、有り金全部巻き上げた上で、食品を押し売りして逃亡しています。
引用 瘤久保慎司 赤岸K/電撃文庫
『人喰い赤星御一行様 各種食料品代として 八十七日貨七十銭 正に頂戴致しました』
この紙切れを残し、菓子やら煎り豆やら保存食を残していっております。
この辺りは強かと言うか、ずる賢いと言うか―多分、前者と言うべきでしょうね。
これがビスコだけならば、『捕まえて、蒸し焼きにしよう』の発言通り、苛烈な報復が待っているでしょうが、自分の命を助けてくれた、お人好しのミロがいるならば、押し売りの形であれ、品を置いて行けば無碍には扱われないはず、という強かな計算を働かせているように思えます。
しかし、彼女、運があるのかどうかはわかりませんが、悪運は間違いなく強いんですよね。
黒革のバイトなんていう、明らかにそれやっちゃダメな仕事だろというのを引き受けたせいで、寄生虫めいた存在に命を落としかけるも、たまたまビスコとミロが傍にいてくれたおかげで、ミロが寄生虫を引きずりだしてくれましたし、『錆喰いビスコ』の世界観では、霜ヒョウという存在から逃げるために、雪に埋まる方法があるらしいのですが、それのせいで凍死しかかっていた際、これまたビスコとミロに助けられています。
ここで助けられた際に『何でもやって生き延びた、汚いことも、情けないことも。子供二人に、想像つかないようなことだって! 望んで業を負うわけない。あるべきようにやって、あたしは、そうなんだ……!』と内心を吐露し、疲れた、と。人を騙し、人に騙されて、どんどん重くなってくあたしを、引きずりながら生きてく、と。
そんなつまない人生ならもういいかな、と自暴自棄になったシーンを見ると、人に歴史ありなのだなと思う反面、この大茶釜チロルを嫌えない要因の一つなんですよね。
だからと言って、生きるために人を騙すまではしょうがないと思いますが、殺しまでするのは許容出来ないんだよなぁ……戦闘機で機銃掃射したら普通死ぬし、殺すつもりで機銃掃射してるの、黒革との会話でわかっているから、好きにもなれない。
私にとって大茶釜チロルというキャラは、女性であること云々を抜きにして、そういう複雑な感情を抱かせるキャラクターであります。
そんな大茶釜チロルの声優は、富田美憂さんが担当されますが、PVでのあの慌てた『ちょ、ちょっと待ってってばっ!』という声から想像するに、小悪党かつズルい感じがしそうな声だなぁと思っていたんですが、ウィキ見てみたら、
原作のある作品の場合は原作を読み込んで、キャラクターの考え方や行動を理解してからオーディションに臨んでいる
との一文があり、あぁ、中田譲治さんと同じく、作品読み込む派なのか、なら納得と思った次第。
富田美憂さんのように作品読み込んで演じてくれる人には、趣味とはいえ物書きしている端くれとしてはとても有難く思えます、頑張って下さい。